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遊学モニターレポート No.25

映像で読み解く英米社会 英米の映画の中の夢と現実
大学院外国語学研究科連携講座について

今回の講座「映像で読み解く英米社会 英米の映画の中の夢と現実」は、タイトルにもあるように、大学院外国語学研究科の先生方による講義です。

大学院研究科としての社会貢献、学びの提供のほか、社会人入学や科目等履修で本格的に学んでみたいという方向けに、それぞれの先生方の専門や人柄に触れてもらうという目的を持った講座です。 今年度は、「映画」を素材として、英米社会の政治、階級、ビジネス、グローバリゼーション、ドラマといったテーマを、身近な映像作品を通して読み解くというかたちで、「専門」を身近にする試みがなされました。

  • 第1回:5月10日 『カジノ・ジャック』に見るアメリカ政治の舞台裏
  • 第2回:5月17日 『ゴズフォード・パーク』のイギリス階級
  • 第3回:5月24日 新旧『ウォール・ストリート』の描くアメリカン・ビジネス
  • 第4回:5月31日 『エリザベス:ゴールデン・エイジ』のグローバリゼーション
  • 第5回:6月7日 『パーフェクト・センス』の映画的なイギリス
  • 第6回:6月14日 シンポジウム・交流会


『エリザベス:ゴールデン・エイジ』のグローバリゼーション

全6回のシリーズのうち、今回は、第4回、「『エリザベス:ゴールデン・エイジ』のグローバリゼーション」を受講させていただきました。 英国といえば、一昨年の『英国王のスピーチ』、今年の『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』と、政治にかかわる映画が日本でもヒットしたのが記憶に新しいところです。 今回の講義が取り上げるのは、『エリザベス:ゴールデン・エイジ』。エリザベス女王を主人公として、有名なスペイン無敵艦隊との戦い(アルマダ海戦)の前後を描いた映画です。

講師は、外国語学研究科の岡本 至准教授、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学の高等国際問題研究大学院で博士号を取得された国際関係論の先生です。

今回の講座は、『エリザベス:ゴールデン・エイジ』に描かれた史実が、いかに現代のグローバリゼーションにつながっているかということが主題です。


~同じ島国でありながら~

英国といえば、日本と同じ島国。古くは日英同盟、最近では皇室と王室の交流の深さなどもあり、ヨーロッパの国々の中でも、日本人に人気のある国です。
 でも、日本との違いは、大陸に近すぎたこと。ローマのカエサルの侵入に始まり、アングロ・サクソン人、ノルマン人と、大陸からの侵入をたびたび受けていました。岡本先生は、「ドーバー海峡の向こう側を、強大な大国1国に占めさせないこと」が、英国の基本戦略であると説明します。

そして、それが大きく脅かされたのが、エリザベス1世時代。このときの脅威は、当時の「太陽の没することなき帝国」スペインです。
オーストリアと同じハプスブルク家の統治のもとにあり、新大陸をはじめ多くの植民地を有して、ヨーロッパの覇権に最も近い国でした。


~“妾腹の私生児”エリザベス~

当時、英国がスペインに目の敵にされたのは、エリザベス1世の出自にも原因があります。  エリザベス1世の父、ヘンリー8世は、英国教会をつくった王、、、というと聞こえがいいですが、王妃との離婚を認められなかったため、国内の教会・聖職者をローマ教会から離脱させ、王権のもとにある英国独自の教会を創設しました。
 エリザベスは、そのヘンリー8世と、二番目の妻アン・ブーリンとの娘にあたるため、ローマ・カトリックを奉じるスペイン国王フェリペ二世からすれば、「妾腹の私生児」にしか見えないわけです。

しかし、その出自も、アルマダ海戦での勝利につながったというのが先生の見解です。エリザベスは、この映画で大活躍をするウォルター・ローリーや、暗殺計画を未然に防いだフランシス・ウォルシンガムをはじめ、自分に忠実で有能な人材であれば、大いに抜擢し、相応の地位につけました。
 特に、ウォルター・ローリーやドレーク船長といった人物は、いわば「民間」の人材であり、彼らの海賊行為や植民地進出を、スペインへの対抗戦術として積極的に用いたのは、当時としては斬新なことです。
 これは、はじめから王位を継承するものとして育てられたわけでなかったエリザベスには、もとからの側近団がいなかったこと、また、その出自から、家臣についても家格などへのこだわりを持たなかったからこそできたことです。

ちなみに、「この映画で大活躍をするウォルター・ローリー」と書きましたが、実際には、ウォルター・ローリーはアルマダ海戦の際は陸上にあり、映画での活躍は完全に創作なのだそうです…。


~エリザベス時代の遺産~

大国スペインからの圧力に屈せず、無敵艦隊の侵攻という直接の脅威にも果敢に立ち向かい、勝利を得たエリザベス1世。その遺産こそが、英国、アメリカと続く、アングロサクソンの覇権の根底に流れる思想であると先生は指摘します。  すなわち、

  • 大陸の覇権的パワーに対する徹底的な抵抗(フェリペ2世、ナポレオン、プロイセン・ドイツ、ヒトラー、スターリン)
  • 海軍力の重視
  • 法の支配、ルールによる支配の重視
  • 交易・植民地拡大の意欲
  • 民間パワーの活用
  • 自由の擁護、専制への反抗
です。
確かに、大英帝国といわれた英国の覇権時代から、それを受け継いだ今のアメリカの覇権には、こういう性格がありますよね。

今回の講座から、歴史映画に描かれていることを「当時のエピソード」として楽しむだけではなく、その前史を知り、さらには今につながる要素を考えながら観ていくと、より多層的な楽しみ方が、さらには学びができるということを教えていただきました。

ちなみに、先生によると、『エリザベス:ゴールデン・エイジ』のキャスティングや登場人物のメイク・衣装は、当時の肖像画などにきわめて忠実だそうです。 まだ映画をご覧になっていない方は、ぜひDVDを借りてきて、ウィキペディアなどにある画像と見比べながら鑑賞してみると、面白いのではないでしょうか。



コーディネーター・桑子順子教授より

今回のシリーズは、①それぞれの専門分野から「映画」を読み解くこと、②大学院での授業のレベルに近づけるということ、の2点を大きな方針としつつ、細部は各々の教員のペースで講義をしてもらいました。

また、最終回にまとめのシンポジウムを置くことで、受講者のみなさまの質問にお答えしながら、一つの講座としてまとまりのある視野を得ていただけるような工夫をしました。
加えて、シンポジウム後の交流会には研究科の全教員も参加し、個人的な質問などを通して大学院での学びに関心を持っていただく、また同じテーマに関心を持っていただいている皆さま同士で交流を深めていただける場としました。

秋冬期には、「映像で読み解く英米社会 PartⅡ」を企画予定です。 今後も工夫を凝らしながら、外国語学研究科の各教員の専門分野や、大学院での学びに関心を持っていただけるような講座を開催していきたいと思います。



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文京区向丘にある文京学院大学本郷キャンパスを拠点に、年間700余りの講座を展開しています。
「文芸」「健康・心理」「語学」「実務・資格」の4つのジャンルでの講座展開のほか、1年間の継続学習のコースである「文京生涯カレッジ」、自治体や企業・団体などとの連携講座、大学の各学部・大学院研究科との連携講座など、現役世代の会社帰りや休日の学びから、リタイア世代の方の地域に根差した学びまで、幅広い学習シーンに意欲的に対応されています。

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