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遊学モニターレポート

レポートNo.009 関西ユニーク講座体験取材「怪異学の愉しみ」園田学園女子大学

 「怪異学」って聞いたことありますか?「怪しく異なる学問」って、なんだか怪しいですねぇ。 そんな日本で唯一であろう「怪異学」の公開講座を体験取材しました。

「怪異学の愉しみ」のコーディネーター大江篤教授をインタビューしました
園田学園女子大学
未来デザイン学部
大江篤 教授
 まずは受講の前に今回のコースをコーディネートされた、園田学園女子大学、大江篤教授をインタビューしました。

「『怪異学』ってなんだか面白そうですね。ゲゲゲの鬼太郎の妖怪 とかを研究されるのですか?」

 ゲゲゲの鬼太郎も大好きですよ(笑)。ただ、私が研究している「怪異」とは、妖怪のことではなく、古代の中国王権が権威を裏付けるために使った「天人相関説」にもとづく災害・怪異というときの「怪異」です。日本の古代では 神の怒り(祟り)などと説明される「前近代の王権」を理解する上でのキーワード としての「怪異」ですね。


 

日本古代の神と霊
大江 篤 (臨川書店)
「先生が『怪異学』に興味を持ったきっかけを教えてください。」

 高校時代に担任の田中久夫先生(現、神戸女子大名誉教授)から宿題をいただきまして、祖父・祖母の住む滋賀県の湖東の「オイナリサン」の民俗調査をしました。オイナリサンの言葉を伝えるオダイサンの話や、葬儀の様子を『みかげ民俗』という研究会の会誌に発表しました。その時のオイナリサン調査は怖くもあり、楽しくもあったのですが、この経験から大学は史学科に進みました。その後、大学で参加した『続日本紀』の読書会で、「神の怒り」としての 「祟り」に出会いました。現在の研究テーマとの初めての出会いですね。


 

亀卜 東アジア恠異学会
(臨川書店)

「先生の他にどのような方が『怪異学』を研究されていますか。」

 怪異学は学際的な学問ですので、多くの専門分野の方が参加されています。 2001年に、西山克教授(関西学院大学)を中心に発足した東アジア恠異学会には、もちろん 歴史学の先生や国文学・民俗学の先生が多くいらっしゃいます。ユニークな ところでは、動物学の研究者もいます。島田尚幸さんはカメの研究者 なのですが、亀卜(キボク=古代の亀を使った占)に使われたカメは、淡水ガメでなく 海ガメであることを突き止めました。また作家の京極 夏彦さんも会員なんですよ。学会の論文集『怪異学の技法』には寄稿いただくだけではなく、装丁のデザインまで お願いしています。今日の授業の村上紀夫先生は博物館の学芸員ですが、本格的な授業になりますよ。


怪異学の技法 東アジア恠
異学会 (臨川書店)
「公開講座とともに、園田学園女子大学でも同テーマの講座を持たれていますが、女子大生の反応はどうですか?」

 反応いいですよ。最近は携帯でも800文字で投稿する「手のひら怪談」がブームですし。「口さけ女」など都市伝説などを織り交ぜて話します(笑)。

「最後に『怪異学』の今後への先生の思いをお聞かせ下さい。」

 そうですね。最近はスピリチュアルブームでもあり、心の問題がクローズアップされています。人の心の問題はある意味、古代でも現代でも同じです。古代では「怪異」が人々の心の不安の一つの解決策となりえた。現代でも、私たちの研究が何らかの形で心の問題に解決策を提供したいという思いがあります。
さあ、そろそろ授業が始まりますので行きましょう。


「怪異学の愉しみ第5回 怪異と近世の庶務信仰」を受講しました

レポート写真03
丁寧でにこやかな語り口調の村上紀夫先生

レポート写真03
古文書や古地図が多く引用された授業の
レジュメ

 さて、ここからは、公開講座 怪異学セミナー「怪異学の愉しみ」の受講レポートです。この講座は6回のシリーズになっており、毎回その道の怪異学研究者が最新の研究成果をレクチャーします。

 今回は「怪異と近世の庶民信仰」というテーマで、大阪人権博物館学芸員の村上紀夫先生が講義をされました。村上さんの立場は、「怪異」を古代王権との関係だけで捉えずに、民衆との関係においても 意味のあるものとして見出そうというものです。

 古文書にある「神社」を丹念に読み込んでいくことで、民衆の中にある「怪異」を浮き彫りにしていきます。まずは、『宇治拾遺物語』に初見がある 繁昌神社。その後、『雍州府志』『京都民俗志』などから、「秀吉に神社を移動させられたら怪異があった」という伝承を見つけ出します。次に京都二条大宮の岩上神社。『京都巡覧集』など多くの文献により、こちらも「祀られていた岩を移動したら怪異が起きた」という言い伝えを発見。これより、「神社(=民衆の意識)は移転をすると怪異が起きる」、すなわちここでの怪異は保守的で変革を望まない民衆の意識を表しているとのこと。

 後半は、京都城陽市寺田の「夜叉観音」に居た「夜叉」という女性の起源を追うことで、「伝承は生き、周辺のさまざまな事象を取り込んで変化を続けるものである」ことを検証します。

 うーん。かなり本格的で難しいです。一般向け公開講座ということですが 受講生に中途半端に迎合していません。しんどかったけど、いかにも古文書を読み込んだという研究の疑似体験が出来ました。また、村上紀夫先生の丁寧でにこやかな語り口調の中にも、「怪異研究を王権という支配思想のイデオロギー分析だけに矮小化したくない」という筋の通った解説は素敵でした。

怪異学セミナー「怪異学の愉しみ」カリキュラム  (2007年後期)
1 「祟り」の語られ方 大江 篤 園田大学女子大学
未来デザイン学部教授
2 奈良・平安時代の人々とフシギなコト 榎本 寛之 斎宮歴史博物館学芸普及課長
3 怪異を記録する中世 西山 克 関西学院大学文学部教授
4 怪異と妖怪
-フシギなコトから、フシギなモノへ-
化野 燐 作家
5 怪異と近世の庶民信仰 村上 紀夫 大阪人権博物館学芸員
6 西欧近世における魔女と「怪異」 黒川 正剛 太成学院大学人間学部専任講師

※2007年度の募集は締め切っています。2008年度も開催予定ですので、ご期待下さい。
http://kansai.second-academy.com/lecture/SON10005.html

体験取材後記
 大江篤先生は、丹波篠山市と尼崎市という2つの城下町の祭礼について考えるフォーラムも主催されています。「祭りが元気な所は地域に活力がある」ということで、歴史的、民俗的な祭礼を街づくりに活かす取り組みです。ゲゲゲの鬼太郎で町おこしをしている境市や京都北野の妖怪ストリートなどの例もあり、将来は「怪異による町おこし」をどこかで陣頭指揮されているかもしれません。楽しみです。

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